本日、海外・国内の車いすマラソン招待選手、エリート出場選手を発表しました。
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東京マラソン2019車いすエリートレース展望
車いすレースでは、新コースになった2017大会から日本人選手が連勝中です。また、2017大会は6選手が、2018大会は2選手がフィニッシュ直前までデッドヒートを繰り広げ、最後まで勝利の行方が分からない接戦が続いています。今年はいったいどんなレースになるでしょうか。
車いすレースでは、一般に長い上り坂や下り坂などで仕掛ける選手が多いですが、東京マラソンのコースにはきっかけとなるようなポイントがあまり見当たりません。唯一といってもよいのがレース序盤の5㎞地点手前にある下り坂です。おそらくスタートからこの坂までは集団でのレースになると思いますが、下り坂では自然に時速50㎞以上にスピードアップするので、ここで仕掛けてトップに立ち、一気に逃げる選手が現れるかもしれません。
あるいは、互いに牽制しあい、集団が崩れないままのレース展開となることも考えられます。ただ、選手としては集団の人数はなるべく少ない方がいいので、スピードを上げ下げしてライバルを振り落とそうとする選手も出てくるはずです。この駆け引きも車いすレースの見どころです。誰がリードし、誰が遅れるのか。集団の大きさの変化にも注目です。
スピードの速い車いすレースは向い風の抵抗が強いので縦一直線に連なる走りも特徴ですが、先頭に長くいると疲労し、ペースダウンしやすいので、元気な選手が先頭を替わり、ペースを維持しようとします。「ローテーション」と呼ばれる動きで、この動きが頻繁に見られるときは速いペースでレースが進みます。
先頭の選手が首を左右に振って他選手に交代を促したりしますが、なかには体力温存のためなど先頭に出たがらない選手もいて、集団が横に広がることもあります。レース中の各選手の様子に注目すると、それぞれのレース戦略が読めるかもしれません。
最後までもつれた場合は、フィニッシュ前の直線に入る手前の左カーブでの位置取りが重要です。一漕ぎで大きく差がついてしまうので、どの選手もできれば先頭で直線に入ろうと狙ってくるはずです。そのためには、41㎞地点を過ぎた丸の内仲通りがポイントでしょう。石畳が続き、「長くて、きつい」という選手も多く、昨年は私も選手として走って実感しましたが、石畳では車いすの振動が激しいので、うまく走ることが大切です。
今年はもう一つ、注目してほしい見どころがあります。今年度のアボット・ワールドマラソンメジャーズシリーズXIIから車いすレースに新たに加えられた、「スプリントボーナスポイント」です。設定条件をクリアした選手1名にボーナス点が与えられます。設定条件には、(1)コース上のある地点をトップで通過する、(2)設定区間で最速タイムをマークする、という2つがあり、今年の東京マラソンでは設定条件(2)を選びました。
具体的には高輪の第2折り返し点直後の35.8km地点から37.1kmまでの直線1.3km区間をボーナスポイント区間とし、タイムを競います。駅伝でいう、「区間賞」をイメージしてもらえば分かりやすいかと思いますが、順位に関わらず、どの選手にも可能性があります。終盤の苦しいところでもあり、ここでペースアップすることで、レース全体が動くことも期待されます。ぜひ注目してください。
■群雄割拠の頂上決戦!
東京で、車いすマラソンのトップレベルのレースをお見せしたい――。そんな思いで、今年のエリート選手には、2018年中に行われたアボット・マラソンメジャーズ6大会の優勝者全員を含む、男子9人、女子8人の計17選手を招聘しました。「世界トップ」がずらりと顔をそろえる予定です。初出場選手も多く、展開が予測しにくい分、楽しみです。
まず、男子ですが、ボストンマラソン(4月)を制したマルセル・フグ(SUI)はトラックからマラソンまでオールマイティな絶対王者。先行逃げ切りもできれば、フィニッシュ前のスプリントも強く、昨年の大分国際(11月)では2018年度世界最速タイムとなる1時間23分56秒をマークしています。2017大会は2位、昨年は渡航アクシデントにより欠場だったので、東京初優勝を狙った積極的なレース展開に期待です。
ロンドン(4月)の覇者、デイビッド・ウィアー(GBR)は先頭で引っ張るよりは周囲を見ながら、誰かが動けばしっかり反応できる地力があります。初出場ですし、集団の中でどんなポジションを取ってくるか楽しみです。
ベルリン(9月)を制したブレント・ラカトス(CAN)は、実は100mを得意とするスプリンター。また、障がいの最も軽いT54クラスの選手が多いなか、T53と障がいが少し重いクラスの彼がマラソンを制したことは驚きですが、車いすマラソンの面白さも示してくれました。
シカゴ(10月)とニューヨークシティ(11月)で2連勝を飾ったのはダニエル・ロマンチュク(USA)です。招待選手の中では20歳と最も若く、勢いがあります。序盤からレースをかき回し、他の選手を刺激するような走りに期待です。
海外からはもう一人、韓国のユ・ビョンフンを招待しました。昨年の大分国際(11月)で3位に入った選手で、トラックで磨いたスピードを武器に、マラソンでも急成長しています。彼もラカトスと同じT53 ですが、二人とも小柄で軽量なので負担は少ないはずです。初出場の二人が最後まで絡み、スプリント勝負で持ち味を発揮してくれるかもしれません。
日本選手はまず、前回覇者の山本浩之(福岡)。招待選手の中では最年長のベテランで、東京のコースは得意としているので、しっかり合わせて臨んでくれるでしょう。大分国際で2位に入った鈴木朋樹(トヨタ自動車)は今、日本で最も勢いがあります。先頭で引くというよりは、集団の中で戦況を見ながら最後まで競ることができる選手です。逆に、大分国際5位の西田宗城(バカラパシフィック)は序盤から仕掛け、攻めた走りでレースを動かしてくれるはずです。一昨年の覇者、渡辺勝(トッパン)もポテンシャルは十分です。海外の強豪たちと渡り合える強い選手たちが集結しています。
女子は、昨年優勝のマニュエラ・シャー(SUI)が世界記録(1時間36分53秒)を更新する快走を見せたベルリンのほか、シカゴ、ニューヨークシティでも勝ち、絶好調です。ロンドンを制したマディソン・デ・ロザリオ(AUS)はT53の選手ですが、勢いがあり、フィニッシュ前の競り合いを制したスプリント力もあります。ボストンの覇者、タチアナ・マクファーデン(USA)は常に上位に入る実力者です。3人がいい流れを作ってくれると思います。
日本の喜納翼(タイヤランド)は大分国際で自己新(1時間39分36秒)をマークするなど着実に力を伸ばしています。世界トップ選手たちに最後まで食らいつき、メダル争いをしてほしいです。
このように、今年も男女とも実力者ぞろいの「贅沢なレース」になる見込みです。沿道で、テレビで、ぜひご観戦ください。2020年の東京パラリンピックを楽しむ準備にもなるはずです。
現在のコースは一般に、「フラットな高速コース」と評され、マラソンの部では好記録が誕生している一方、車いすマラソン出場選手からは「タフなコース」という声が聞かれます。実際、男子の優勝記録は2017年が1時間28分01秒、2018年が1時間26分23秒と世界記録(1時間20分14秒)からは少し離れています。
車いすマラソンでは、ペースメーカーがいないので選手それぞれがペースを維持し、自身の描くレース展開をつくらねばならない難しさもありますが、それが「醍醐味」でもあります。
実力的には世界新も狙える選手がそろっているので、ローテーションしながら縦長の集団で展開されるレースになれば、記録更新も十分可能でしょう。スピード感にあふれ、迫力ある車いすレースをぜひ応援し、楽しんでいただきたいと思います。
東京マラソン車いすレースディレクター
副島正純
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